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共生山 極楽院 月影寺(げつえいじ)

連載法話

  

お寺と和菓子の楽しみ

 

 私は大学院生の頃、芝山内の心光院に通い、先代住職の啓真先生の元で修行させていただきました。現在の義晴住職がアメリカで研究されていた、今から十数年ほど前の話です。一応は和尚としての資格はいただいたものの、実際にお寺で何をすれば良いのかもわからず、一から教えていただきました。当時は知らないことばかりの恐いもの知らずで、お手伝いをするつもりが、先生や奥様に迷惑ばかりかけていました。

 法要には、五具足(ろうそく×2・仏花×2・御香)、位牌、お供物を準備します。お供物は高杯(たかつき)、三宝(さんぼう)などに和紙を敷いて果物やお菓子を盛ります。お供物の菓子には落雁や砂糖菓子など甘いものが多いのですが、これは砂糖が貴重品であったことに由来するそうです。仏教の生れたインドでは、日本と同じく今でもヒンドゥー教の神様に砂糖菓子を供えます。現代の日本では砂糖であれば長持ちするという、むしろ実用的な面があるかもしれません。

 お寺には、お供えするお菓子以外にも、お参りに来た方へのお茶請けの和菓子などが必要ですし、さらに本山などの大寺院では、門前町のお店には参詣者向けの銘菓があるところも多く、お寺には甘い和菓子がつきものなのです。

 ある日曜日、法事の合間に茶の間で啓真先生と二人、奥様にいれて頂いたお茶を飲んでいたところ、とても大きな大福をいただくことになりました。当時は、あまり甘いものを食べる習慣のなかった私は遠慮していたのですが、先生は「これは美味しいよ。食べてみなさい。」と勧められるのです。私はお茶を一口飲んで覚悟を決め、白いかたまりを頬張りました。しかし、食べてみると、見た目から想像したようなやたらと甘いものではありません。いかにも東京風にほんのりと塩風味の利いた餅のように軟らかい薄皮で、餡も甘すぎず何とも上品な味でした。初めて食べた虎ノ門・岡埜の「豆大福」でした。心光院の周りには老舗の和菓子屋さんが多いこともあったためでしょうか、先生は和菓子には、とても詳しかったようです。私が下町の出身であることもあり、戦後復員されてから、後輩の大谷旭雄先生(深川・重願寺御住職)に隅田川堤の長命寺の桜餅や、言問団子を食べに連れて行ってもらった思い出話をお聞きしたのもこの時でした。

  お寺によって、御用達の和菓子には各々違った工夫があります。お寺めぐりをされた時には、お菓子にも注目してくただきたいものです。本山などでは、寺紋の入った珍しい御用菓子があります。京都の総本山知恩院の三葵紋の入った麩菓子「葵」も結構な味ですが、東京の大本山増上寺の三縁クッキーもなかなか人気があります。ご存知でしょうか。

 お寺の和菓子には地域によっても違いがあります。関西では必ずといって良いほど、訪ねると抹茶(お薄)と上菓子をいただきます。東京はこれに対して、煎茶と和菓子の組み合わせです。そのため、茶菓子の範囲が広く、洋菓子やちょっと高級なものならば、饅頭や煎餅などもお出しすることがあります。お寺では御本尊にお供えした後、お菓子をいただきます。ご自宅でも御仏壇にお供えしてからいただいて下さい。

 また、季節によって工夫があるのも和菓子の楽しみの一つですが、それはお寺でも同じです。春の彼岸で、小豆の粒を牡丹になぞらえた「牡丹餅(ぼたもち)」を供え、秋の彼岸では萩になぞらえた「おはぎ」を供えるのは、なかでも一般的です。今ではどちらも呼び名の違いだけになってしまいましたが、以前は本当に花の形を模したものであったそうです。

 和菓子は、茶道の発展とともに、そしてお寺を密接な関係を持ちつつ、さらに変化し、一般に親しまれるようになったのですが、日本文化の中には、お寺で仏様にお供えすることから発展したものが実に多いのです。修行中の僧侶が薬として嗜んだお茶から喫茶の習慣や茶道が生れ、仏前に供える献花からも、京都・六角堂の住坊である池坊(いけのぼう)より専慶や専永という名人が出て華道が発展しました。また、インドから仏教とともに伝わった御香はお寺には欠かせないものですが、「お香を聞く(嗅いで味わうこと)」という香道としても親しまれています。

 お寺というと、修行の厳しいイメージや、精進料理や懐石料理などの印象が強いでしょうか。昔からお寺参りには、信仰とともに、気楽にお茶や和菓子などを楽しむ習慣があったようです。信仰のきっかけは、法話を聴いたり書物を読むこと以外にもたくさんあります。目からの機縁(仏像や仏画など)、鼻・匂いからの機縁(お香など)、耳からの機縁(お経や声明、木魚などの鳴り物など)、身体・行動からの機縁(お寺参り、巡礼や写経など)とともに、口からの機縁(お茶やお菓子、精進料理など)があります。どうか、皆様それぞれの個性や趣味にあった仏縁を生かして、楽しく豊かな信仰生活をお送りください。南無阿弥陀仏。


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